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有期契約労働者の契約期間途中の解雇

column

2021年02月17日

社会保険労務士法人味園事務所 特定社会保険労務士 味園公一

会社は従業員が期待通りに働いてくれることを望むものですが、なかなか思う通りにいかないケースも多いと思います。今回は「能力不足により成果が上がらなく、かつ他の従業員に対しての言動が強調性を欠く有期契約労働者を、試用期間満了日に解雇したいのだが...。」と相談を受けた事案につき、ご紹介します。

そもそも有期契約労働者には...。

試用期間の定めについて

試用期間とは一般的に長期雇用を前提とする者(労働契約期間の定めが無い者)につき、「解約権留保付労働契約」の期間として定めるものです。ちなみに、有期契約労働者に試用期間を設けてはならないという法令はありませんが、労働契約期間の全部や、例えば1/2以上の期間を試用期間とすることは、裁判例などによると「やや長期間である。」という判断になります。この期間についても法令の制限はありませんが、勤続40年前後になるであろう正社員の試用期間が3か月~6か月程度であることを考えると、有期契約期間1年のうち試用期間が3か月間でもいかがなものかと思います。

定年制度について

有期契約労働者と定年の関係のお話です。一般的に定年とは労働契約期間の定めの無い者に対する規定です。契約期間を更新した有期契約労働者は継続雇用しているように見えますが、契約期間が満了する都度退職、契約更新をする都度再び入社を繰り返しているのが実際です。契約期間満了日が到来すれば自動的に退職することになるので、定年の規定は不必要なわけです。

なお、有期契約労働者につき一定年齢を超えて雇用しないようにする場合には、就業規則または雇用契約書において、「有期契約労働者については、満XX歳を超えて労働契約を締結しない。」旨を規定しておけば、定年と同じ考え方で運用可能となります。

契約期間途中の解約

有期契約労働者の試用期間の取扱いについては前述の通りですが、そもそも契約期間の途中で解雇などできるのでしょうか?

有期契約労働者との労働契約を当該契約期間の途中で解約することは、労働契約法第17条第1項(以下URL参照。)により「原則できない。やむを得ない事由がある場合においては可。」と定められております。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128

また解雇にあっては、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効」とする旨が同法第16条に規定されております。

このやむを得ない事由がある場合とは、最低限、就業規則や労働契約書等に定める退職事由、普通解雇もしくは懲戒(解雇)事由にあたる行為等があったと確認できる必要があります。さらに、やむを得ない事由と認定されるためには、「職務遂行能力が極めて劣る。」や「その言動が極めて不適切である。」等、「極めて」が一つのキーワードだと考えます。加えて、「やむを得ない事由」についての立証責任は使用者側にあると言われていますので、誰が見てもやむを得ないと言えるものでないと難しいと解釈できます。

この「やむを得ない事由」について裁判例では、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由であることが求められています。

「やむを得ない事由」として該当し得るのは、例えば労働者が労務不能となったこと、労働者に重大な非違行為があったこと、雇用の継続を困難とするような経営難などであると言われています。さらに裁判例では、「やむを得ない事由」の存在を容易には認めない傾向がうかがえます。たとえば、整理解雇の場合に求められる①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③手続きの妥当性といった観点からは、有期契約労働者の雇止めが肯定できると判断される状況であったとしても、3か月という短期の有期労働契約について、期間途中の解雇を容認するだけのやむを得ない事由は認められないとした例もあります。

解雇以外の対処方法は?

本来は、従業員が会社の理想像に少しでも近づいてくれれば良いのです。そのために、弊所では能力不足社員への対応として以下の対応をお勧めしています。

1)書面にて能力改善プログラムを発動させる旨を通知する。当該書面には以下の内容を記載する。
・能力が不足すると判断する事由
・使用者側が求める当該社員の理想像
・改善プログラム期間(少なくとも2か月以上)
・改善できるように使用者側が支援する内容

2)上記1)の期間満了日の少なくとも1週間前に、経過した期間中の振り返り面談を実施する。

3)改善されていなければ再度上記1)および2)を実施し、能力改善プログラムを複数回実施したにも関わらず改善されなかった場合に初めて、進退についての話し合いを持つ。

会社としては、無理に解雇等をして労働紛争に発展するリスクを抱えることが、問題を大きくすることと自覚をして、丁寧に対応することをお勧めします。

参照文献等 :労働政策研究・研修機構HP

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