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70歳まで雇用 高年齢者就業確保措置とは?

column

2021年03月24日

社会保険労務士法人味園事務所 特定社会保険労務士 味園公一

労働力人口の益々の減少により、会社にとって高年齢者雇用は喫緊の重要課題です。本年4月1日より70歳までの雇用の努力義務化がスタートします。

今回は「高年齢者就業確保措置」について、その概要を説明します。

高年齢者雇用安定法の改正

高年齢者雇用安定法は、職場で高年齢者が活躍できる環境整備を図るための法律です。現状では「高年齢者雇用確保措置」として65歳までの雇用確保が義務化されており、会社は以下のいずれかの対応をする必要があります。

①65歳までの定年引き上げ
②定年の廃止
③65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)を導入
今回、同法の改正施行により令和3年4月1日からは、65歳から70歳までの“就業機会を確保”するため、以下のいずれかの措置を講ずる努力義務が新設されました。

❶70歳までの定年引き上げ
❷定年の廃止
❸70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)を導入
※子会社、関係会社の事業主に加えて、他の事業主によるものを含む
❹70歳までに継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
❺70歳までに継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主自らが実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

上記❶~❸については、前述の「高年齢者雇用確保措置」の65歳以上バージョンであり、すでにいずれかの対応をしている会社は、今回新たに対応する必要はありません。

高年齢者就業確保措置への対応

高年齢者就業確保措置を講ずる場合、上記❶~❸は65歳を70歳と読み替えれば比較的導入しやすいものです。❹及び❺については今回新設された創業支援等措置であり雇用によらないものですが、その運用に当たっては事前に計画を作成し、当該計画について過半数労働組合又は過半数代表労働者の同意を得て、当該計画を周知する必要があります。このことは「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」(以下「指針」という。下記URL参照。)により示されています。

https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/hourei/H201102L0040.pdf
高年齢者就業確保措置を講ずる上でどの措置を講ずるかについては労使間で十分に協議を行い、高年齢者のニーズに応じた措置を講ずることが望ましいとも指針にあります。以下に、会社として対応しやすい❶~❸について述べたいと思います。

70歳までの定年引上げ及び定年の廃止

定年年齢については高年齢者雇用安定法第8条により、原則として満60歳が下限と定められています。❶又は❷の措置は、努力義務である70歳まで定年年齢を引き上げてしまうか、そもそも定年制度を廃止してしまうという内容です。このケースでは、対象者が無期契約労働者全員となり選別することができないということが特徴です。

加えて、定年引上げや廃止の際に課題としてよく耳にするのは、退職金の支払いです。一般的に退職金制度は60歳定年を基礎として設計されていることが多く、定年が延びる(無くなる)ことにより積立期間を延長することは会社にとって人件費負担増になります。また、(定年)退職前に退職金を支払うと給与所得として税金計算をする必要があり、社員に不利益となります。結果的に実際の退職時まで支払いを留保しているケースが多いようです。

70歳までの継続雇用制度(再雇用制度)の導入

65歳以降は有期契約労働者として継続雇用する制度です。定年引上げや廃止と違い、対象となる高年齢者の基準を設けることが可能です。義務である高年齢者雇用確保措置では、原則として希望者全員を65歳まで雇用する必要がありますが、改正法が努力義務規定であるため基準を定めることが可能となります。

この対象者の基準の策定に当たっては、指針により「労使間で十分に協議の上」と原則として労使に委ねられています。但し、事業主が恣意的に高年齢者を排除しようとするなど法の趣旨や、他の労働関係法令に反する又は公序良俗に反するものは認められません。単に「継続雇用の有無については会社が決定する。」ではNGということです。

対して以下のような、客観的かつ合理的であり社会通念上相当であると認められる理由を就業規則等に定めることにより、一定の高年齢者を継続雇用しないことができます。

  • 心身の故障のため業務に堪えられないと認められること
  • 勤務(業務)状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責(業務)を果しえないこと

加えて改正法により、グループ会社以外の事業主が引き続いて雇用する制度が認められました。この場合は当該事業主間で「高年齢者を継続して雇用することを約する契約」を締結した上で運用する必要があります。

このグループ会社以外の事業主が継続する雇用する場合の留意点としては、双方の会社が都道府県労働局長の認定を受けていても、同一の事業主との有期契約が5年を経過すると発生する無期転換申込権が発生するということです。グループ会社での継続雇用では発生しません。

おわりに

今回の法改正に伴い、高年齢者雇用安定法Q&Aに高年齢者就業確保措置に関する事項が追記されました。以下、URLをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/hourei/H201102L0040.pdf

改正法が努力義務規定であるために、高年齢者就業確保措置を講ずるか否かは会社が決定することができます。また、講ずる場合はいずれの対応を行うかについても会社主導で決定できます。但し、同法において努力義務と規定されたものは、ほとんどのものが後に義務化されていますので、会社としては全く無視するわけにはいかないと考えます。

参照文献等 :厚生労働省HP

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